2023年以降の住宅ローン金利はどうなる?低金利時代が終焉する場合の対策も解説

2022年~2023年にかけて、日本を除く先進国では大幅な利上げが行われました。2022年1月時点のアメリカ、欧州、イギリス、オーストラリアの政策金利はほぼ0%近辺でしたが、この記事執筆中である2023年8月4日時点では、下記の表のとおり状況は様変わりしています。
2023年8月4日時点 | |
---|---|
アメリカ | 5.25%~5.50% |
欧州(ユーロ圏) | 4.25% |
イギリス | 5.25% |
オーストラリア | 4.10% |
日本 | -0.10% |
(出典)2023年8月4日時点での各国中銀公表数値を基に筆者作成
先進国が利上げをした主な理由は物価上昇を抑制することです。今後も物価上昇が収まらなければ、各国の政策金利はさらに引き上げられる可能性があります。日本の低水準の政策金利は、先進国の中では目立つ状態になってきており、多くの人が「日本もそろそろ利上げをするのでは?」と思い始めていると思います。
仮に日銀が利上げに踏み切った場合、日本の住宅ローンの金利は今後、上昇していくことになります。そうなると、住宅ローンの新規の借り入れが減少していく可能性があり、その結果として住宅市場が冷え込むことが予想されます。
また、変動金利タイプの住宅ローンの金利が上昇した場合、既に住宅ローンを変動金利で借りている方の毎月の返済額が増加し家計を圧迫する可能性もあります。
このように、日銀の金融政策や金利の見通しは、これから住宅ローンを組む方、既に住宅ローン組んでいる方(変動金利で借りている場合)のどちらにとっても重要な関心事となります。
この記事では日本国内の住宅ローン金利を予想するために着眼すべきポイントと、金利が上がってしまった場合の対策について解説します。
目次
銀行の住宅ローン金利の決まり方
住宅ローンの金利には大きく分けて、変動金利と固定金利があります。一般的に、変動金利は日銀の政策金利の影響を受ける「短期金利」を元に決められます。一方、固定金利は10年もの国債の金利に代表される「長期金利」などを元に決められます。
まず、銀行は短期金利または長期金利を参考にしながら、様々な金利タイプの基準金利を決めます。そして、基準金利から「引き下げ幅」を差し引くことで、実際に利用者が借りるときの住宅ローンの金利である「借入金利」が決まる仕組みになっています。

2023年以降の変動金利はどうなるのか
今後の変動金利の行方を予想するためには、引き下げ幅と日銀の政策金利に注目する必要があります。
まず、引き下げ幅については銀行同士の競争が続く限り高止まりが期待できます。住宅ローンは、銀行にとって、個人のお客さまに提供している重要な金融商品の1つです。
都市銀行や地方銀行だけでなく、ネット銀行も含めて顧客の争奪戦が続いており、一定の引き下げ幅は維持されるでしょう。仮に引き下げ幅が縮小された場合でも、既に住宅ローンを借りている方の引き下げ幅は変更にならないのが一般的です。
一方で、基準金利は、日銀が決定する政策金利の影響を受けるので、物価上昇率や日銀の金融政策に注目する必要があります。日銀は消費者物価指数の前年比2%上昇の目標達成に向けて、政策金利(日本銀行への当座預金の一部に適用される金利)をマイナス0.1%に維持しています。2023年7月27日・28日に行われた金融政策決定会合でもこの低金利政策の維持が決定されています。
(出典)2023年7月28日 日本銀行 当面の金融政策運営について
次に物価の情報を確認しておきましょう。総務省統計局が発表した2023年6月分の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、前年同月比プラス3.3%となっており、実は、日銀の目標であるプラス2%を超えています。
(出典)総務省 報道資料 2020年基準 消費者物価指数 全国2023年(令和5年)6月分
しかも、年2%以上の物価上昇は一時的なものではなく、2022年中から継続的に起きている現象です。下記グラフからわかるとおり、総合指数、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数でも同様の傾向が見られており、データを額面通りに受け取るなら、「日本の物価上昇率は年2%に到達している」と解釈するのが自然だといえます。

(出典)総務省 報道資料 2020年基準 消費者物価指数 全国2023年(令和5年)6月分より筆者作成
この事実を見ると、「既に消費者物価指数は年2%上昇の目標を達成しているのに、なぜ2023年7月の金融政策決定会合で低金利の政策を変更していないの?」と疑問に思う人は多いと思います。
この理由は、まだ日銀は「物価安定の目標」が達成できたとは判断していないからだと考えられます。日銀が求めているのは、消費者物価指数が安定的に前年比2%程度上昇している経済です。
しかし、日銀の2023年7月28日版の経済・物価醸成の展望に書かれている政策委員の物価見通しは、下記の表のとおりになっており、2023年度、2024年度の消費者物価指数は前年比2%を割り込む可能性があるものとされています。このことが、政策金利が据え置かれている理由だと考えられます。
【消費者物価に対する政策委員の大勢見通し】<>内は政策委員の見通しの中央値
消費者物価指数 (除く生鮮食品) |
消費者物価指数 (除く生鮮食品・エネルギー) |
|
---|---|---|
2023年度 | +2.4%~+2.7% <+2.5%> |
+3.1%~+3.3% <+3.2%> |
2024年度 | +1.8%~+2.2% <+1.9%> |
+1.5%~+2.0% <+1.7%> |
2025年度 | +1.6%~+2.0% <+1.6%> |
+1.8%~+2.2% <+1.8%> |
(出典)日本銀行 経済・物価醸成の展望(2023年7月)を基に筆者作成
消費者物価上昇率は落ち着くのか?
前述のとおり、「経済・物価情勢の展望(2023年7月)」を見る限りでは、日銀は消費者物価上昇率は2023年をピークに、2024年度、2025年度は落ち着きを見せる予想になっています。では、日銀はどのような観点で消費者物価の先行きを見通しているのでしょうか。
それを理解する際に、ここでは「物価上昇の原因」に着目してみたいと思います。ここでは物価上昇の原因として下記2点を取り上げます。
【物価上昇の原因2点】
- 資源や原材料価格の上昇
- 賃金の上昇
資源や原材料価格の上昇
資源価格の上昇は、エネルギー価格の上昇に繋がり、消費者物価指数でいえば「総合」と「除く生鮮食品」の押し上げ要因になります。「経済・物価情勢の展望(2023年7月)」では「除く生鮮食品」の指数の見通しについて下記のとおり予想を出しています。
(出典)日本銀行 経済・物価醸成の展望(2023年7月)P4(2)物価の中心的な見通しより引用
実際、2023年6月時点の輸入物価指数(契約通貨ベース)は前月比▲3.1%となっており、この下落には、「石油・石炭・天然ガス」が前月比▲2.74%の下落が寄与しています。2022年~2023年にかけて、ロシアがウクライナに侵攻したこと等を理由に資源価格が高騰し、それが日本の物価を押し上げる1つの要因にもなりましたが、その現象については、一旦は落ち着きの兆しが見えている可能性があります。
(出典)日本銀行調査統計局 企業物価指数(2023年6速報)
一方、同展望レポートでは、物価のリスク要因として、下記の引用文のとおり、原材料コストの上昇を挙げています。
(出典)日本銀行 経済・物価醸成の展望(2023年7月)P7(2)物価のリスク要因より引用
結局のところ、日本は、資源や原材料の多くを輸入に頼っており、為替動向も物価に影響するため、資源や原材料の動向を基に消費者物価上昇率を明確に予想することは難しいものと割り切るのが得策かもしれません。日銀は上記引用文と同じページで下記のような記述もしています。
今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及は、上振れ・下振れ双方の要因となる。
(出典)日本銀行 経済・物価醸成の展望(2023年7月)P7(2)物価のリスク要因より引用
日銀自体も相場変動については、先行きを見通すのが難しいと考えていることがわかります。
賃金の上昇
賃金の上昇は、消費者物価指数に2つの意味で寄与します。1つは企業のコスト増として、もう1つは購買力の増加、すなわち需要の増加です。日銀は、賃金が物価にもたらす影響を下記のように発表しています。
今年の春季労使交渉は、ベースアップを含め、昨年を大きく上回る賃金上昇率となった。適合的予想形成の強いわが国において、これまでの物価上昇率の高まりは、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇をもたらしてきており、企業の賃金・価格設定行動には変化の兆しがみられている。先行きについては、 現実の物価上昇率がプラス幅を縮小していくなかでも、需給ギャップが改善し、企業の賃金・価格設定行動や労使間の賃金交渉が変化していくもと、見通し期間終盤にかけて予想物価上昇率が緩やかに上昇していくことで、賃金の上昇を伴う形で、物価の持続的な上昇につながっていくと考えられる。
(出典)日本銀行 経済・物価醸成の展望(2023年7月)P5(2)物価の中心的な見通しより引用
一見すると、賃金上昇を伴う物価上昇が目前に迫っている印象を受けます。しかし、物価のリスク要因としては、下記のようなコメントもあり、国内の賃上げが継続的なものになるのかどうかは、日銀としてもまだ確信が持ててないようです。
今年の春季労使交渉では昨年を大きく上回る賃金上昇率となったものの、物価や賃金が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が根強く残り続ける場合、来年以降は賃上げの動きが想定ほど強まらず、物価も下振れる可能性がある。
(出典)日本銀行 経済・物価醸成の展望(2023年7月)P7(2)物価のリスク要因より引用
ここまでの解説をまとめると、「資源や原材料の価格動向は、為替レートを含め、相場変動の影響を受けるため、日銀としても明確な予想をするのは難しい。」「国内の賃金上昇については、慣行の変化が確認できるまでは先行きは不透明な状態である」ということになります。日本の労働者の賃金が上昇し、需要の増加により安定的な物価上昇が継続すれば、日銀が利上げに踏み切る可能性があることは、認識しておく必要があります。
固定金利はどうなるのか
固定金利についても、銀行同士の引き下げ幅競争が行われている点については変動金利と同じです。
しかし、変動金利と異なり、固定金利は2022年~2023年にかけて緩やかに上昇してきています。その理由は長期金利の上昇にあります。
前述の通り、固定金利の基準金利は長期金利によって決まります。そのため、長期金利が上昇すると、固定金利も上昇します。下記グラフは、長期金利と住宅金融支援機構が提供する固定金利型の住宅ローン【フラット35】の金利を並べたものです。

(出典)財務省 国債金利情報住宅金融支援機構
【フラット35】借入金利の推移(最低~最高)令和3年4月から<借入期間が21年以上35年以下、融資率が9割以下、新機構団信付きの場合>
上記資料を基に筆者作成。長期金利は10年もの国債の月末時点の金利を使用し、フラット35の金利は資料中の最低金利を使用している。
グラフからも、長期金利とフラット35の金利は概ね連動していることがわかります。一般的に、長期金利(10年もの国債の金利)の変動は、債券市場に委ねられています。しかし、今の日本では日銀が、長期金利が年0%近辺になるようにコントロールを行っています。
この政策は、イールドカーブ・コントロールといわれているものです。日銀が10年もの国債を買うことで、長期金利を一定の範囲に抑えています。2022年12月20日の金融政策決定会合までは、日銀は、長期金利の変動範囲を、年0%を中心に年±0.25%としていました。
上記のグラフからもわかるとおり長期金利は、2022年中旬から、日銀が上限とする年0.25%近辺で推移していることがわかります。
しかし、2022年12月20日の金融政策でサプライズが起きました。日銀は、それまで年±0.25%に抑えていた長期金利の変動幅を年±0.5%に広げると発表したのです。
「長期金利は日銀が許容する変動幅の上限近辺に張り付いている」ということは、変動幅の上限を年0.25%から年0.5%に上げれば、長期金利が年0.5%近辺まで上昇することは、容易に想像できることでした。この日銀の発表を、多くの人は「事実上の利上げ」と受け取りました。
実際、上記のグラフのとおり、長期金利は2023年1月に、年0.5%まで到達しています。このことから、国債の金利は日銀の許容範囲の上限まで上昇する傾向があることがわかります。
そして、2023年7月の金融政策決定会合では、長期金利の許容範囲をさらに広げることを示唆する発表がされました。下記は2023年6月16日の金融政策決定会合後の公表文と、2023年7月28日のそれを並べたものです。
<2023年6月16日の金融政策決定会合後の公表文>
長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10 年物国債金利について 0.5% の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。
(出典)日本銀行 当面の金融政策運営について 2023年6月16日 日本銀行より引用
<2023年7月28日の金融政策決定会合後の公表文>
長期金利の変動幅は「±0.5%程度」を目途とし、長短金利操作について、 より柔軟に運用する。10 年物国債金利について 1.0%の利回りでの指値オペ を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。
(出典)日本銀行 当面の金融政策運営について 2023年7月28日 日本銀行より引用
一見すると、長期金利の変動幅の許容範囲はそれまでと同じ「±0.5%程度」から変更がないようですが、指値オペを行う金利のラインが0.5%から1.0%に引き上げられています。この発表は、±0.5%程度という言葉は残っているものの、長期金利の変動幅に対し、日銀の許容する範囲がある程度は広がったと受け止められ、先述のグラフのとおり、7月31日時点で長期金利は0.5% を突破しています。
長期金利の変動幅の拡大をした理由
先述のとおり、経済・物価醸成の展望(2023年7月)では、日銀は2023年および2024年の物価上昇率が2%には届かない可能性もあるものとしています。
物価上昇率に慎重な見通しする一方で、なぜ日銀は長期金利の変動幅に柔軟性を持たせたのでしょうか。
この理由について、植田日銀総裁は、2023年7月28日の金融政策決定会合後の記者会見で下記のように述べています。
<引用>
今後も物価や予想物価上昇率の上振れ方向の 動きが続く場合には、実質金利の低下によって金融緩和効果が強まる一方、長期金利の上限を 0.5%の水準で厳格に抑えることで、債券市場の機能やその他の金融市場におけるボラティリティに影響が生じる恐れがあります。イールドカーブ・コントロールの運用の柔軟化によってこうした動きを和らげることが期待されます。
(引用元)2023年7月31日 日本銀行 総裁記者会見 ――2023年7月28日(金)午後3時30分から約60分
多くの企業は資金調達のために社債を発行しています。社債の金利は、国債の金利を基準にします。基本的には、国債よりも社債の方が、債務不履行の可能性が高いと思われているため、企業の信用力に応じて、国債の金利にある程度の金利を上乗せして社債を発行するのが一般的です。
しかし、日銀が人為的に債券市場の金利を固定することで、市場の機能が低下してしまうと、国債の金利を基準とした社債の発行において、弊害で出てしまう可能性があります。日銀は債券の市場機能の低下を防ぐために、長期金利の締め付けを少し緩めたのだと解釈できます。
安定的な物価上昇は実現するのか
日銀が他の先進各国のように、金融引き締めの利上げに動くためには、安定的な物価上昇が必要です。では、安定的な物価上昇は日本でもあり得るのでしょうか。
安定的に年2%の消費者物価指数の上昇を実現させるためには、賃金の持続的な上昇が必要です。賃金が上昇することで、需要が喚起され結果的に物価上昇に繋がるからです。しかし、下記グラフを見てわかるとおり、日本の労働者の賃金は、ここ20年ほとんど上昇していません。下落基調にあった賃金がやっと回復してきた、という程度です。需要が拡大することで結果的に物価が上昇する、といった好景気による物価上昇が起きるためには、日本の労働者の賃金がさらに上昇し続ける必要があります。

(出所)国税庁 民間給与実態統計調査結果 2-1給与所得社数・給与額・税額の表より筆者作成
賃金上昇の持続性に注目
賃金上昇については政府の姿勢は前向きです。2022年10月3日に行われた第210回臨時国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説で、岸田総理は、「構造的な賃上げ」について下記のように語っています。
賃上げと、労働移動の円滑化、人への投資という三つの課題の一体的改革を進めます。
物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、正面から、果断に、この積年の大問題に挑み、「構造的な賃上げ」の実現を目指します。
まず、官民が連携して、現下の物価上昇に見合う賃上げの実現に取り組みます。
(出典)自民党 第210回臨時国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説より引用
平均賃金方式で回答を引き出した 5,272 組合の「定昇相当込み賃上げ計」は加重平均で 10,560 円・3.58%(昨年同時期比 4,556 円増・1.51 ポイント増)、うち300人未満の中小組合 3,823 組合は 8,021 円・3.23%(同 3,178 円増・1.27 ポイント増)となった。
(出典)連合 「未来につながる転換点」となり得る高水準の回答 ~2023 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~ 2023年7月5日より引用
しかし、このような賃上げが持続的なものになるのかはまだわかりません。日銀がいうように、日本の慣行が変わったとはまだいえないからです。
ちなみに、厚生労働省発表の有効求人数に対する有効求職者数の割合を示した「有効求人倍率」は、下記の表のとおり、コロナ感染の経済的影響が大きかった2020年から2023年にかけて上昇しています。このような求職者優位の売り手市場が続くことは、賃金上昇の追い風となる可能性はあります。
2020年平均 | 2023年6月 | |
---|---|---|
有効求人倍率 (含むパート) |
1.18倍 | 1.30倍 |
(出典)厚生労働省の下記資料に基づいて筆者作成
一般職業紹介状況(令和2年12月分及び令和2年分)について
一般職業紹介状況(令和5年6月分)について
植田日銀総裁の就任後の金融政策の行方
日銀総裁は、2023年4月に黒田氏から植田氏に交代しました。このように聞くと「総裁が変わったので、今後の金融政策も変わるのでは?」と考える人はいると思います。
本記事執筆時点(2023年8月)では、総裁の変更を理由とした金融政策の転換は見られていません。そもそも金融政策は、総裁だけで金融政策を決定するのではなく、政策委員の多数決で決めます。
植田氏だけが金融政策を決めているわけではない、ということは認識しておく必要があります。だからといって日銀の方針が、全く見当もつかない、ということではありません。日銀の金融政策は政府の経済政策の方針に合うように、政府と連絡を取りながら進められるからです。
(参考)e-Gov 日本銀行法(第一章 総則第四条)
現岸田政権は、以下の3点を重点分野として掲げています。
- 物価高・円安への対応
- 構造的な賃上げ
- 成長のための投資と改革
(出典)自民党 第210回臨時国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説
企業の利払い費を増加させる利上げは賃上げと成長への投資に対する冷や水になってしまいます。賃上げと成長のための投資が促されている間は、利上げの判断は簡単には行われないだろうと推測できます。
しかし、もし賃上げと、成長のための投資と改革が順調に進めば、自ずと需要が牽引する形(ディマンドプル型)の物価上昇に繋がる可能性があります。もし、持続的な賃金の上昇を伴う安定的な物価上昇が継続した場合には、久しぶりに日銀の利上げが視野に入る可能性はあると考えられます。
金利が上がる場合の対策
ここまでの解説の通り、未来の金利を断定することはできません。ゆえに金利が上がってしまった場合を想定し、対策を取れるようにしておくことが大切です。金利上昇に対しては、以下の対策が考えられます。
- 繰上返済の資金を残しておく
- 借り換えを検討する
繰上返済の資金を残しておく
繰上返済は期間短縮型で行うと返済期間が短くなります。
住宅購入時には、手元の資金を頭金としてめいっぱい使ってしまう方が少なくありませんが、手元資金を残しておくと返済計画に余裕を持たせることができます。
借り換えを検討する
高い金利から低い金利の住宅ローンへの借り換えは住宅ローンの総返済額を減らす効果があります。
住宅ローンの返済時に金利が上昇すると影響を受けるのは、主に変動金利で借りている方々です。一般的な変動金利だけでなく、固定金利選択型で住宅ローンを借り、当初の金利引き下げ期間終了に伴い自動的に変動金利に移行されている人も要注意です。比較的高い金利に変更になっている可能性が高いからです。ご自身の借入金利を確認してみましょう。
適用されている金利が高いと感じる人は、より金利が低い住宅ローンに借り換えを行うことで、総返済額を下げられる可能性があります。
なお、住宅ローンの借り換えの際には、事務取扱手数料や登記関連費用などの諸費用がかかるので、それらを含めても経済的メリットがあるのかを確認しましょう。自身で計算が難しいと感じる方は、オンライン相談を利用するのもおすすめです。
また、事務取扱手数料には、定額型と定率型があります。SBI新生銀行では定額型の事務取扱手数料の住宅ローンを提供しています。このような住宅ローンであれば、比較的諸費用を抑えた借り換えができます。
借り換え時に団体信用生命保険を強化できる可能性がある
借り換えのメリットは、総返済額の削減だけではありません。団体信用生命保険(団信)を強化できることがあります。団信の保障内容は一般的に「死亡・高度障害」です。つまり、病気や高度ではない障害は保障されていないということです。
最近は、ガンと診断されただけで、住宅ローンの残債が保険金によって返済されるガン団信や一定の介護状態になった場合に同じく保険金で残債が返済される介護保障付きの団信も見受けられます。
現在借りている住宅ローンの金利が、高いと感じる方は借り換えによって借入金利を下げるだけでなく、団信を強化できるかもしれません。
金利が上がる前提でシミュレーションをしておく
金利が上がるか上がらないかをいくら考えても、答えは未来にならないとわかりません。
それならば、これから住宅ローンを借りる方は、金利が上がるのを前提に借入額や金利プランを検討しておけば安心です。
金利が上がった場合を想定してキャッシュフロー表を作成する
金利が上がった場合の家計の収支を予測するためには、キャッシュフロー表を作成しておくことが有効です。キャッシュフロー表とは、収入と支出と貯蓄額を時系列で年表にしたものです。
変動金利で借りる方は、金利が上がった場合にどれだけ収支が悪化するかを確認することができます。
固定金利で借りる方は、変動金利で借りた場合と比較することで、固定金利の選択が合理的なのか否かを判断できます。例えば、変動金利で金利の引き上げがあった場合でも固定金利に追いつくほどの金利上昇でなければ、結果的に変動金利が有利だった、ということもあり得ます。
キャッシュフロー表を作成することで、感覚ではなく数字に基づいた選択ができるようになります。
住宅ローンシミュレーションを活用する
住宅ローンを取り扱っている金融機関のウェブサイトでは、住宅ローンシミュレーションを使うことができます。住宅ローンシミュレーションを利用することで、金利が上昇した場合に、どれだけ毎月の返済額が増加するかを計算することができます。
例えば、返済期間中に金利が1%上昇すると仮定した場合、返済開始から5年目で金利が上昇するのと、15年目で金利が上昇するのとでは、毎月の返済額の増加額は前者の方が高く、後者の方が低くなります。残債が多い時期ほど金利が上昇したときの毎月の返済金額の上昇幅が大きくなるからです。
住宅ローンシミュレーションを使えば、先に述べた繰上返済や借り換えによる経済効果も計算することができます。
固定金利と変動金利どっちが正解?
日銀は金融緩和を続けていますが、賃金上昇が安定的な物価上昇に繋がった場合、いつかは利上げの可能性があることは想定しておいた方が良いでしょう。このようにいうと、これから住宅ローンを借りる人は、固定金利を借りるべきか、変動金利を借りるべきか悩むと思います。一般的に変動金利の方が固定金利よりも当初の金利は低いですが、固定金利の安心も捨て難いからです。
固定金利タイプを選ぶ際には、途中から金利が下がるように設定されている「ステップダウン金利タイプ」を選ぶのも一案です。ステップダウン金利タイプであれば、固定金利の安心と、低金利のメリットが両立できます。もし、将来金利が上がった際には、変動金利よりも有利になる可能性がありますし、金利が上がらなかったとしても固定金利よりは有利になります。

最後に
先々の金利を正確に予想できない以上、金利水準が変わらなければ金利上昇リスクがない固定金利を選択したいというのが本音だと思います。
しかし、実際に住宅ローン金利の条件を見ると、固定金利は変動金利の2倍以上の利率に設定されている場合もあり、最終的には変動金利を選ぶ方が多いというのが実情です。
実際、日本の金利はバブル崩壊以降低下傾向にあるため、リスクを背負って変動金利を選んだ人が、結果的に低金利の恩恵を受けてきました。
「利率だけ見たら変動金利を選びたいところだけど、金利上昇の可能性は怖い」という人は、金利の低下が約束されているステップダウン金利タイプを検討してみると良いでしょう。
または、変動金利と固定金利を組み合わせるミックスローンも有効な対策です。自分では決められないという人は、銀行のオンライン相談を活用することをおすすめします。
- 本稿の内容は2021年11月に作成し2023年8月に更新したものです。

えんどう こうじ
- CFP(R)
- 1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
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- 本資料は情報提供を目的としたものであり、SBI新生銀行の投資方針や相場観等を示唆するものではありません。
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- 借入期間は5年以上35年以内(1年単位)、借入金額は500万円以上3億円以下(10万円単位)です。
- 変動金利(半年型)タイプ、変動金利(半年型)タイプ<変動フォーカス>は当初借入金利適用期間終了後、お客さまからのお申し出がない限り、ご契約時にご選択いただいた変動金利タイプが継続して適用となります。
- 当初固定金利タイプは当初借入金利適用期間終了後、お客さまからのお申し出がない限り、自動的に変動金利(半年型)タイプが適用となります。
- 変動金利(半年型)タイプ、変動金利(半年型)タイプ<変動フォーカス>、当初固定金利タイプを利用されている方は、金利変更時に当初固定金利タイプをご選択いただくことも可能です。ご選択にあたっては、手数料5,500円(消費税込み)がかかります。
- 各金利タイプは、金利情勢等により、やむを得ずお取り扱いを中止する場合もございます。
- SBI新生銀行ウェブサイトにて、借入金額や借入期間に応じた毎月の返済額を試算できます。
- 事務取扱手数料は安心パックをお申し込みの場合110,000円(消費税込み)、お申し込みされない場合55,000円(消費税込み)、変動金利(半年型)タイプ<変動フォーカス>をご選択の場合、借入金額に対して2.2%(消費税込み)を乗じた金額となります。それ以外に抵当権設定登録免許税、印紙税*、司法書士報酬、火災保険料等がかかります。*電子契約サービスをご利用の場合、印紙税は不要ですが、別途電子契約利用手数料5,500円(消費税込み)がかかります。
- ご融資の対象物件となる土地、建物に、当行を第一順位の抵当権者とする抵当権、または根抵当権を設定いただきます。
- パワーコール<住宅ローン専用>、SBI新生銀行ウェブサイトにて商品説明書をご用意しています。
- 当行の住宅ローンを既にご利用中のお客さまにつきましては、当行で借り換えをすることができません。
- 住宅ローンのご融資には当行所定の審査がございます。審査結果によっては、表示金利に年0.10%~年0.15%上乗せになる場合がございます。ご希望にそえない場合もございますので、あらかじめご了承ください。
[2023年8月25日現在]